- その四 -

蒸し

「蒸し」は小さい工房ではできない作業です。小物でしたら「筒蒸し」という方法でできますが、着物のような長丈のものはそれなりの設備を必要とします。一つの方法には「箱蒸し」があります。大きなサウナを想像してください。一部屋丸ごとが蒸し器、湿度100%、部屋の煙突からはお風呂屋さんのように、煙がもこもこあがっています。この中で、棒切れに着物をじゃばらにつるして布地が触れ合わないようにして約
40分、四方からまんべんなく蒸気を充てて蒸します。こうして、熱と蒸気でいままで注してきた色の定着と発色をさせるわけです。蒸し加減によって、出来上がる色は微妙に想像と異なることもありますし、新しい色を発見することもありますし。色が決まる「蒸し」は地染めと同様、後戻りのできない慎重を要する工程です。










水元・干し・仕上げ

さて、ここでようやくこれまでの工程で布地に付着させた糊の水洗いをします。今は職人さんの工房にあるプールのような水槽が使われますが、本来は「友禅流し」と言って、清流を利用したものです。長尺の反物が京都の鴨川辺りで色鮮やかに泳いでいる光景をご覧になったことがおありの方もあるでしょう。水洗いが終わったら「干し」です。張手という装着道具を使い、布の両端に取り付けて引っ張った状態で天日乾燥致します。乾いたら、仕上げを施します。日本画の顔料などを使って、花のおしべ、めしべを描き込むのですが、このことを「においを入れる」と風流な言い方で呼んでいます。金や銀を使い、模様の周りを縁取るような技法もあります。

完成

これまで、布地にとっては過酷な作業の連続です。布目がひねれたり曲がったり…そこで温泉に入って一休みし、布目を整えてもらいます。それが「湯のし」という工程です。それが終わるといよいよ最後の工程となります。仕立て屋さんに縫い上げていただきます。キャンバスに向かい、全体像を遠目で確かめたりしながら筆を進めるのとは違い、友禅のような分業では、仕立てあがるまで、作品を眺めることはできません。最初に思い描いた通りに染めあがったか、身ごろの縫い目にかかる模様はうまく合っているか、襟から胸にかけての模様の流れはイメージ通りバランスよくおさまっているか等々、祈るような気持ちで作品に目を通します。こうして出来上がった着物を、お客様にお納めします。初めて袖を通される時、お客様も私が仕立てあがりの着物を見る時と同じ緊張感を味わうに違いありません。姿見越しにお客様の笑顔を拝見した時、染め手もやっと一仕事をなし終えた安堵と満足感を覚えます。